全国の学校で当たり前のように出されている通知表。実はこれは法的な根拠がない。法的根拠がないのだから、どのような項目・内容かも特に定められていない。あまり知られていないが、そもそも、通知表は出しても出さなくてもよいものである。「通知表がない」という学校が公立学校の中にも存在する。

 それでも多くの学校で通知表が出されているのは「保護者や児童生徒に対し、学習の到達状況や生活の様子を伝え、今後の成長に生かすため」である。通知表は、単に評価の優劣を伝えるものではなく、「今後の成長に生かす」ことが大切である。勉強が得意な子もいれば不得意な子もいる。どの子にとっても保護者にとっても「これから頑張ろう」と意欲の持てる通知表にしたい。

 この通知表が大変厳しい先生がいる。
 低学年の頃から3段階の最低評価(C、△、1など)をつける先生がいるのだ。年端もいかない低学年の1,2年生に「Cがいっぱい」の通知表を渡している。
「できないのだから仕方がない」という。
「できないのに『お子さんはできますよ』と保護者に嘘を伝えるのもよくない」という。
本当にそうだろうか。

 漢字テストが100点満点で10点だったとしたら「もう一度やってごらん」と再度取り組ませ、それでもだめならもう一度取り組ませ、B評定がつくまで指導しただろうか。
 4年生になっても、水泳で5メートル程度の泳力の子がいる。「4年生で5メートル」はC評定であろうが、教師と一緒に顔付けや水慣れをしたり、励ましながら何度も挑戦させたりしてプールの半分程度泳げるようになればB評定をつけることも多い。
 算数も然り。授業中の様子から個別に理解度を見て取り、できない子に個別に教えただろうか。これをせずに、一度のテストだけでC評定をつけるのはいかがかと思う。

 大事なことは、「できないから仕方がない」とC評定をつける前に、何度も何度も教え、励まし、根気強く取り組ませ、少しずつ褒め、ほんの少しだけでも伸ばしてあげたかということである。これに取り組んだ上でなおCをつけざるを得ないのならば仕方がない。
 しかし、(あえて厳しい言い方をするが)Cがいっぱいの先生はこれをかなりの部分で放棄していることになる。
 スイミングスクールのコーチは泳げない子を泳げるようにしてお月謝をいただいている。「おたくのお子さんは泳げません。C評定です。」とはならないはずで、およそどの子も泳げるようにさせている。学校の先生もできない子をできるようにさせるのが仕事である。

 「それでもできないのに『お子さんはできますよ』と保護者に嘘を伝えるのもよくない」という。

 それも分かる。一人で40人近くの子どもを見ている先生の大変さは十分知っている。その上で、今回私が一番言いたいのは「どうしてもCが付いてしまう場合は仕方がないが、せめて、1つのCをためらう教師でありたい。」ということである。

 読者諸氏は大人(先生や保護者)がほとんどだと思うが、あなた自身、「会社の勤務評定がCだらけ」だったとして、これからもこの仕事を頑張ろうと思えるだろうか。人によっては「仕事が向いていない。職を辞めよう」と思う人だっているはずである。子どもも同じだ。「僕はダメだ」「もう勉強ができない」と思うのが普通である。教師のたった一つのC評価がその後にわたる「劣等感」をもたせてしまう恐れがあるのだ。さらには「学ぶことを放棄」させてしまう危険性だってあるのだ。

 子どもを評価することは、教師として大事な仕事の一つである。
 例えばそれは、ラーメン屋さんが、お客さんが来ないことを出発点にして、自分のラーメン作りを見直すのと同じだ。つまり子どもの評価は、教師自身の指導力の評価と向上に直結しているのだ。「子どもが伸びなかった」という事実を出発点にして、教師自身が指導を改善・向上させていくために評価は必要なのである。

 しかし、教師の指導力向上はすぐにはいかないのもまた事実である。「教え上手な先生」になるには長い時間がかり、長年やってもうまくいかない事も多い。

 ならばせめて先生方には、自分自身がつけたCがいっぱいの通知表を見て「できるようにさせてあげられなかった」と心痛める先生であってほしい。自分の指導の至らなさを振り返れる先生であってほしいのだ。

 お子さんがいる先生は思い出してほしい。
 我が子が初めて歩いた時、家族みんなで喜んだはずである。
 「わ~すごいすごい!すごいね!歩けたね~」
 共に喜び、大げさに褒めたはずである。
 たった一歩、たった二歩を大げさに喜び、褒めて育てるのが教育である。
 通知表もそうありたい。

 お子さんの通知表が、C評定ばかりで心を痛めている保護者のみなさん。
 こう書いている私も、若い頃、厳しい通知表に悲しんだお母さんから電話をいただいた経験があり、自分自身を大いに振り返った経験があります。担任の先生の指導に不信感があるのなら、お電話一本でもお話を聞いてもよいかもしれません。それが先生の今後の指導力の向上にもなります。

 もちろんこの厳しい時代に先生になっている方なので、伝え方には十分ご配慮いただけると教員経験者としてはありがたいです。
 一方、「信頼しているあの先生の評価だから、厳しくてもまた家庭でも頑張ろう」と思えるならば、是非、長期休み中にお子さんと振り返り、新学期に向けて頑張ってください。

(通知表にC評定をたくさんつける先生 終わり)