これは意見が割れるかもしれない。

私が教育実習をした学校の指導教官は、服装や身だしなみに厳しかった。
実習の行き帰りは、スーツであること、登校後は速やかに更衣室で体操着などの実習できる服装(ジャージ)に着替えた。体操着は無地ポロシャツ(白または紺)、派手なプリントデザインもNGであった。上履きは無地の運動靴。要するに清潔感があり華美ではないことが前提であった。実習を終えて帰るときも必ず着替え、ネクタイを締めて下校した。今思えば、浮かれ気分の学生に社会人として服装を指導することは当然。まして子どもの前に立ち「先生」と呼ばれるのだから当然のことである。当時は「厳しいな」と思いつつ、素直に受け止めていた。

ところがいざ働き始めてみると、周りの先生はみな好きな服装で仕事をしていた。中学の先生はネクタイ・スーツが多いが、子どもと活動する事も多い小学校の先生はそうはいかず、基本的に服装は任意であった。
私自身、教育実習で指導されたこともあり、若い頃は専らジャージに運動靴スタイルで子どもたちと接した。休み時間になると外で遊んだので、いつでも運動できるスタイルであった。もちろん、会議や出張の時はスーツに着替えた。30代40代になると、体育のない日や作業などのない日は、スラックスやチノパン、ポロシャツや襟付きシャツが多かった。ワイシャツで授業をし、体育や運動・作業の時は着替える場合も多かった。
教師には制服がなく、服装にきまりもない。

ただ、そんな中で「これはダメだな」と思っていたのがサンダルである。
どの学校にも必ずサンダルの先生がいた。
はじめの頃は感覚的に「格好悪い」と思っていただけだったが、途中からあることを感じるようになった。
それは「サンダルの先生は仕事にだらしなく、生徒や保護者からもあまり人気がない」ということだ。
もちろん、これは「私の感覚」でしかなく、調査をしたわけでない。あくまでも「私の感覚」と前置きさせていただいた上なのだが、今でもその感覚は私の中にある。
付け加えるなら、サンダル履きの先生よりも靴を履いている先生の方が指導力の高い先生の割合は高かったように思うし、少なくとも靴を履いている先生の方が一生懸命な先生の割合が高かったと思う。そして保護者の信頼も高かったのではないかと思う。
この「感覚」がどこから来るのか、なぜサンダルはダメだと思うのか少し考えてみた。

①怪我、火災、地震など緊急時に素早く対応できない。(危機対応への備え)
②自分が怪我をしやすく、仕事に支障がでる。(自分の安全管理)
③ペタペタ音が、授業の耳障りである。(児童への配慮)
④子どもに対してフットワークよく対応できない。(児童への対応)
⑤子どもに指導することは教師自ら範を示すという視点。(師弟同行)
⑥サンダルで出勤する社会人などいない(教員の社会的信用)
といったところだろうか。
これらは、ほんの少し考えればわかることである。
お気づきと思うが、ダメなのはサンダルそのものではない。
「サンダルと靴の(一見小さく見えるが実は大きい)違いに気づき、気を配らない」ことなのだ。そういう細部に気を配れない人は、教師の仕事(授業や生徒指導)にも気を配れないということなのだと思う。日々の仕事で細部に気を配れないということは、何年たっても力量がつかないことを意味する。結果、子どもや保護者に対する気配りができない教師となり「児童から人気がない、保護者から信頼がない」ということなっているのだと(私は)思う。

よく「外見は中身と関係ない」と言うが、果たして本当だろうか。
あえて例えておく。
銀行員がサンダルでやってきて「預金をしませんか」と言ったら、あなたはお金を預けるだろうか。

昔、若い男性の新卒N先生が、私が勤務していた学校に着任し4年生の担任となった。
イケメンで爽やかな先生だった。
初日は格好よくスーツで出勤し周囲の職員も大いに期待していた。
ところが彼は、一ヶ月もしないうちにサンダルで出勤するようになっていた。
「あれ、おかしいな」と思っていたら案の定。
やがてその先生は、体育もカジュアルファッションで指導するようになり、給食指導もエプロンを着けなくなっていた。
若い先生だったから子どもに人気があったが、やがて少しずつ「4年生の子たちの行動が心配」という声が職員室で聞こえるようになった。どなたかの先生が「サンダルはよくない」と指導されたようで、足元は靴になったが、新卒4年間で大きく成長したようには、私には見えなかった。

その後。
私が教育界に身を置いている間、知人や研修会で知り合った先生方との会話の中でN先生の話題になることが何度かあった。しかしその誰からも「N先生はすばらしい」と聞くことはなかった。
いつだったか、どこだったか、とある研修会場でN先生ご本人をお見かけしたが、スーツの着こなしもだらしなく、無精ヒゲを生やしておられた。
「こんにちは。お元気でご活躍ですか。」
と声をかけるだけで分かれた。

サンダル履きと指導力は関係あるのだろうか。
意見が分かれると思うが、意外と小さな事にその人の本質が見えるものである。
(サンダルで仕事をする先生 終)